賃金のデジタル払いの導入
記事作成日:2025/2/28
労働基準法の賃金支払い5原則とは、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。」という原則のことです。
このように、原則賃金は、通貨で支払わなければならないと労働基準法に定められています。
しかし、2023年4月1日施行の「労働基準法施行規則の一部を改正する省令案」により、一定の条件を満たした資金移動業者の口座への賃金支払が認められるようになりました。
この法改正により、企業は給与などの賃金を、電子マネー、スマホ決済アプリなどにデジタル払いができるようになったのです。
今回は、賃金のデジタル払いの概要、賃金のデジタル払いができる資金移動業者、導入のメリットデメリットなどを解説していきます。
現状で給与は、銀行などの金融機関の口座に振り込まれている方がほとんどです。
この銀行口座への給与の振込は、労働基準法の賃金支払い5原則の中で通貨払いの原則と直接払いの原則に違反するものとなります。
しかし、給与などの賃金を通貨で支払うことは、大量の現金を準備しなければならないリスクや、大きな事務工数がかかります。
そのため、従業員の同意を得た場合には、従業員が指定する銀行などの金融機関の口座への振込が認められているのです。
また、最近ではキャッシュレス決済の普及や、送金サービスの多様化により、資金移動業者の口座への給与などの賃金の支払いも一定のニーズがあります。
そのため、2023年4月1日施行の「労働基準法施行規則の一部を改正する省令案」によって、厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者の口座への給与などの賃金の支払いができるようになったのです。
このような電子マネーやスマホ決済アプリなどのデジタルマネーで給与などの賃金を支払うことを、賃金のデジタル払いといいます。
賃金のデジタル払いは、どこの資金移動業者の口座に対してもできるわけではありません。
賃金のデジタル払いが可能な資金移動業者は、申請をした後に厚生労働省で一定の審査を通った業者のみ該当するのです。
賃金のデジタル払いの審査を通った資金移動業者は、現状PayPay株式会社と株式会社リクルートMUFGビジネスの2社だけです。
PayPay株式会社は2024年8月9日に、株式会社リクルートMUFGビジネスは2024年12月13日に厚生労働省から指定されました。
賃金のデジタル払いは、2023年4月1日から始まっていますが、審査に時間がかかったため実際にはPayPay株式会社が資金移動業者として指定されるまで1年以上もかかっているのです。
現在審査中の資金移動業者もありますので、今後資金移動業者が増えていく予定です。
事業所が賃金のデジタル払いを導入するためには、労働組合または労働者の過半数を代表する者との間で労使協定を締結する必要があります。
労使協定は、以下の事項を記載した書面等によって締結しなければなりません。
・対象となる労働者の範囲
・対象となる賃金の範囲およびその金額
・取扱金融機関、取扱証券会社および取扱指定資金移動業者の範囲
・口座振込等の実施時期
労使協定を締結したら、個々の労働者へ賃金のデジタル払いの留意点などについて説明しなければなりません。
賃金のデジタル払いの導入にはメリットもありますが、デメリットもあります。
賃金のデジタル払いのメリットは、以下のことが考えられます。
・銀行振込の場合は給与を引き出す時に銀行の営業時間、ATMの利用時間などを考慮しなければなりませんが、賃金のデジタル払いの場合はその時間を考慮する必要がないこと
・キャッシュレスのため、現金を持ち歩く必要がないこと
・給与振込手数料を削減できる可能性があること
一方、賃金のデジタル払いのメリットは、以下のことが考えられます。
・電子マネーによる給与の支給は、セキュリティに不安があるのと
・労使協定の締結や、従業員への説明をしなければならないため、手間がかかること
・システムの導入などコストが増える可能性がえること
このように、賃金のデジタル払いは、まだまだ厚生労働省から指定された資金移動業者がまだ少ないため、導入するメリットは薄いかもしれません。
賃金のデジタル払いについて、疑問などがある場合や、詳しく知りたい場合には、是非一度当事務所にご相談ください。